5) 息子様はプロのヴァイオリニストに
ダ) 先生の息子さまはプロのヴァイオリニスト(現・東京交響楽団・第2ヴァイオリン首席)ですが、ご家庭での指導はどのようにされていましたか?
板) 鈴木先生を見ていて覚えたことでしたけれども私は家庭でヴァイオリンを教えませんでした。レッスン代を払って教室にきちんと来てもらい、家庭では母親が子供たちに教えていました。教室には他の子がいますから私も自分の子供を特別扱いしないですし、できないから甘えが許されません。私の元で他の子と同じことをやりますからその中でいろいろなものが培かっていくのでしょう。お互い家にいると甘えが出てくるけれども、家庭と教室を分けたのが良かったのだと思います。
また他の子が演奏するのを見たり、聴いたりすることがとても勉強になります。家だけでレッスンしていたら途中で辞めていたかもしれません。家では先ほど述べた通り、母親がレッスンで述べたことをメモしてそれを実践してくれていました。だからレッスンではお母さま方に必ずノートをつけてもらっています。
6) アンサンブル(ザイテ合奏団)
ダ) 先生の生徒さんたちで構成する弦楽アンサンブル、ザイテ合奏団について教えてください。
板) アンサンブルは演奏家にとっても大事ですし、人と人との交流だからその中で培われることがいっぱいあります。個人レッスンよりも楽しめるのではないかな。ザイテ合奏団を始めて30年位になりますが、アンサンブルは習い始めの子がすぐできるわけではないから、立ち上げるまでは5年くらいかかりました。この合奏団がここまでは育ったのは音楽的に妥協しなかったこと、この子達はまだ小学生中学生だからこの程度にしておこうか?とか考えずにきちんと伝えます。情熱持ってやってきましたし、これからも妥協せずに続けていきたいですね。
ザイテ合奏団:演奏会の模様と指揮をする板垣先生
7) 楽器と弓選び
ダ) 生徒さんの楽器選びのポイントを教えてください。
板)それは音に尽きますね。ストラディバリウスが全ての人に合うとは限らないし、やっぱり出会いかな。生徒さん達の楽器選びの場合は基本的には家庭の事情をきちんとわきまえて選定してあげます。私からこうしなさいとは言ったことはなく、予算を聞いてあったものを選んであげます。おおざっぱに言いますと、イタリア製の楽器にかなうものはないと思っています。できるだけそれに近づけていって、生徒とご父兄に話をして、とても買えないということになれば予算に見合う楽器を探すお手伝いをします。
好みのある人は自分で買ってきます。選んでくださいという方には、最初から楽器を与えても彼らは解らないので「この楽器はこういう音がするよ」と弾いてあげます。また1/2、3/4サイズなど子供用の分数楽器に関しては私が次の楽器のために・・究極最後の大人用フルサイズの楽器が高いから少しでもクッション置いた方が良いのでは?と言うことをお話しして、前の楽器を下取りしてフルサイズの買いやすさをアドバイスする方もいます。
ダ)弓選びのポイントは?
板)弓も大事ですね。弓はやはりフランス製が良いです。予算的に難しい場合は、フランスの弓に近い弓を探してあげます。では、何が近いかというと、まずテンション(張り)がいいことです。また良い弓は持った時にわかります。そして弦にあてた時の感触や、音も無駄のない感じがします。それが安い弓になるにしたがってそのポイントが抜けていく感じがあります。弓の性能としては「飛ぶ」こと、それから弦に対して吸い付きがいいこと。これらを基本に選んでいます。
ダ)大人の初心者の方にはどのようなアドバイスをされていますか?
板) 私は楽器のために指導しているわけではなく、皆さんの演奏が上手くなるために指導しています。みなさん最初は、どういう音を鳴らせるかということで必死ですよ。始めの楽器は、「高い楽器でなくても良いです」と言っていますが、段々うまくなってくるとちょっといい楽器を買いたいという人が出てきますね。
8) コンクール審査のポイント
ダ)先生はコンクールの審査員をしていますが、コンクールではどんなところをポイントとして見るのですか?
板)技術的なことが前提ですが、いかに音楽を豊かに表現できるかをみます。テクニックを通していかに「自分を表現できるか」そこまで行くのが入賞する子だと思います。だから私は点数が辛いって言われます(笑) でも、いままで歴代の人はみな自分を持っていました。感性が優れた子は表現が豊かですから、やっぱりそこを一番にみますね。中には模範的な演奏をする子もいますが、わたしは多少傷があっても感性豊かな子を取る。表現力は感性からくるものだから。
プロは淡々と弾くような音楽を要求していないです。我々のやっている音楽は芸術の中で唯一涙を流せる芸術ですから。絵画を見ても涙を流す人はそんなにいませんね。「あ、素晴らしい!」って思うかもしれないけれども涙を流すところまではいかない。「涙を流す」のはまさしくその人の感性の表現です。それは演奏家の心と聴き手の心の結びつきから出てくるのです。
指導の話しではありますが、私はレッスンを通してその子の感性を育てたいと思っています。なかなか話さない子もおりますが、引き出して感性をほり上げている・・根を土から出してあげるような。それが常日頃の私の仕事です。指導者がその子の感性を引き出さないとこの子らの世の中は大変です。これからはまさしく感性の時代だから、五感を育てる、それはまさしく、感情を表現できることにつながります。 感性を磨くことで内側から想像力が出てきます。これが「人を育てる」ということだと思います。
9) 「人は、人によりて、人となる」
ダ) 最近、先生は「人は、人によりて、人となる」と言う言葉を使われていますね。
板) はい、これは私の言葉ですが、開眼してこの考えに至りました。今までも失敗の連続だった。もちろん「自分が一番偉いんだ」みたいな時期もあったでしょう。でも私はいろいろな人に育てられてきて、皆に助けられて今があると気付きました。そういう思いもあって現在私は生まれ故郷の北海道・赤平市で「赤平の町おこし」という運動をやっています。そもそも私がヴァイオリンを始めたのも兄からもらったのがきっかけでしたから。私がやるっていってやったのではなくて、すべて人が環境を与えてくれたし、その出会いでここまで来た。鈴木先生との出会いでも私の人生が大きく変ったように、その人の人生は自分だけで決まるのではなくて人によって決まるという考えです。これはレッスンでも同じです。
わたしも子供たちから毎日教わっていますよ。何を教わっているかというと、「どうしてできないんだ」ということを自分自身考えさせられるからなのです。それに親がこう言ったとか、親がどう出てくるとか、諸々の日々があるのです。そこで私はレッスンで常に3角形の形で教えています。生徒・親・先生が「3角形」に位置することでみんながそれぞれちゃんと見えます。このようにレッスンして毎日やっていると言葉でなくても教えられることがありますね。 すべての物事は全て「人によりて」だと思います。
ダ)先生、今日はありがとうございました。
板垣登喜雄先生のレッスンを受けたい!という方は
才能教育研究会(銀座教室) http://suzuki-ginza.com/
電話 0120-556-414(平日9:30~18:00)
へご連絡ください。
※取材日時:2011年9月13日
※取材製作:株式会社ダ・ヴィンチヴァイオリン