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 ダ・ヴィンチヴァイオリンお客様に聞く


棚町公一朗さん(平成20年8月)

もくじ 
1.ギヨーム作、特注モデルの弓を買う
2.はじめてヴァイオリンを買ったとき
3.どんなヴァイオリンが好きか
4.自分にとっての良い音を、自然の風景に例えると?
5.クルマに例えると? ワインに例えると?
6.独特の空気感を感じるチャイコフスキー。演奏すると興奮するブルックナー
7.弓にお金をかけるべきかどうか、迷っていた時期
8.ふと妻の弓で自分のヴァイオリンを弾いてみると…
9.ダ・ヴィンチヴァイオリンへの第一印象
10.5本目の弓を引いた瞬間、…
11.ヴァイオリンに投じるお金は、惜しくない
12.これから弓を選ぼうとする人へのアドバイス
13.これからの期待


棚町公一朗さんのプロフィール
40歳。建設会社勤務。1995年から文京区民オーケストラにヴァイオリン奏者として所属。2006年よりコンサートマスター。ヴァイオリンを弾き始めたのは、高校のクラブ活動の時から。奥様も、文京区民オーケストラに所属。

ヴァイオリン本体は、マリオガッタを。弓は、ピエールギヨームによる、19世紀フランスの巨匠ピエール・シモンの作品の複製モデルを使用。

■ ギヨーム作、特注モデルの弓を買う

― 今回、どんな弓を買われましたか。

今年の5月に、ピエール・ギヨーム作 特注モデルの弓を購入しました。

― 不躾な質問で恐縮ですが、その弓の金額はおいくらでしたか。

当初、100万円の予算でしたが、結局、大幅にオーバーしてしまいました。

― 新しい弓の調子はいかがですか。

良いですよ。先日の定期演奏会では、新しい弓を使って、初めてソロ演奏を担当しました(※)。思ったより早く弓が手になじんでくれたこともあり、リラックスして演奏できました。もともとギヨームはそれほど好きではなかったのですが、今はすっかり信者です。

※ エルガー作曲 「弦楽セレナーデ」を演奏
■ はじめてヴァイオリンを買ったとき

― 棚町さんがはじめてヴァイオリンを買ったのはいつですか。

20年前に、ラインホルト・シュナーベルのヴァイオリンと、ヘルベルト・ヴァンカの弓を買ったのがはじめてです。当時は大学生だったので、親に借金して買いました。

― たびたび不躾ですが、値段はいくらぐらいでしたか。

ヴァイオリン本体は約60万円、弓は約10万円でした。

このヴァイオリンは18年、使い続けましたが、2006年に所属オーケストラのコンサートマスターに任命されたことを機会に、買い換えました。

― どんなヴァイオリンに買い換えたのですか。

奮発して、マリオガッタの、300万円のオールドヴァイオリンを買いまいた。妻には「これを買うかわりにクルマをやめる」と言って、理解してもらいました。

300万円という高額の買い物だったので、慎重に選定しました。週末は、楽器店に行き、見学と試奏を繰り返しました。ヴァイオリン関連のホームページも、よく調べました。もともと凝り性なので、何かを買うときには、徹底的に調べたくなるのです。

■ どんなヴァイオリンが好きか

― 棚町さんにとって、「良いヴァイオリン」とはどんなヴァイオリンですか。

私の好みでは、という話ですが、「演奏の費用対効果が高いヴァイオリン」が好きです。こう手を動かして、ここに力をこめたからには、こんな音が出るはずだという予想があるとして、その見込み通りの音が出てくれると気分が良くなります。

ミッテンヴァルトから望む風景
― どの国のヴァイオリンが好きですか。

最初はドイツ製のヴァイオリンが好きでしたが、最近は、イタリア製に宗旨替えしました。

― 棚町さんにとっての、ドイツ製の楽器とイタリア製の楽器の、それぞれの魅力を教えてください。

これも私の感覚では、という話ですが、ドイツ製のヴァイオリンは、先ほど述べた「演奏の費用対効果」が優れているように思えます。入力した力、手の動きに対し、期待通りの音量、音色が出力されるような、あたかもドイツ車において、A地点でアクセルを踏んだら、直ちにスピードが出て、その後、B地点に一定時間で到着することが保証されているような、そんなイメージです。

私はかつてヴァイオリン職人に憧れていました。音楽の友社の雑誌などで、ドイツのヴァイオリン職人(マイスター)の写真を、飽かず眺めていました。高校では第二外国語でドイツ語を学び、また新婚旅行もドイツに行き、ヴァイオリンづくりの聖地、ミッテンヴァルトを訪れ、ヨゼフ・カントゥーシャの工房を見学しました。そこでヴァイオリンを試奏させていただいたことは、今でも良い思い出です。

ドイツ製の楽器が質実剛健であるのに対し、イタリア製の楽器には、音にきらめきを感じます。「演奏の費用対効果」だけを実現するのではなく、A地点からB地点に行く時でも、途中の景色を楽しませてくれるような、そんなイメージです。あくまで、わたしの感覚レベルの話ですが。

■ 自分にとっての良い音を、自然の風景に例えると?

― 棚町さんの「感覚レベルの話」をさらにお聞きしたく思います。棚町さんにとっての「良いヴァイオリンの音」とは、どんな音ですか。

個人的には「立ち上がりの良い音」が好きです。何もない空間に、瞬時に音が現れ、世界が一変するような。音色はクリアな方がよいですね。古い楽器には、一枚、膜をかぶせたような、曖昧な音色を出すものもあり、それにも馥郁とした魅力を感じますが、個人的にはクリアを愛します。

― 別の角度から質問してみます。今お話のあった、「棚町さんにとっての良い音」を、自然の風景や、絵画や、クルマなど、音以外の何かで表現すると、どうなりますか。

うーん、考えたこともない質問ですね。

― とりあえず「自然の風景」に例えると、どうなりますか。青い空とか、深い緑とか、海を吹きわたる風とか、何でもよいのですが。

今、わたしの頭の中に、「北海道 富良野の大平原。空気の澄み渡った世界」が浮かびました。

ヴァイオリンは手を動かしている間は音が消えません(それがピアノとの最大の違いです)。わたしは、ホールの隅々まで鮮明に届くような、澄み切った音が好きです。富良野の平原は、その「どこまでも響く音のクリアさ」を表すイメージのような気がします。

■ クルマに例えると? ワインに例えると?

― つづいてクルマにたとえてみていただけますか。

これはフェラーリを目指したいところです。アクセルを踏んだ瞬間に、スパーンと加速して、いっきにスピードがでるようなイメージ。それと同じように、腕や指の重さがゼロになって、自由に動いて、出したい音が瞬時に出力されるようなイメージ。演奏会場の隅々までスパーンと一気に響くような、そんな音が好きです。

― では、絵画にたとえるといかがでしょうか。

絵画は、あまりよく知りません。わたしはワインが好きなので、ワインの方に例えさせてください。イメージとしては、ローヌの シャトーヌフ・デュ・パプのブラン(白)です。今までの話と同じく、クリアさ、透明感という連想から赤ではなく、白です。でもクリアなだけでなく深みもほしい。そういう意味では、ボルドーやブルゴーニュでなく、パプの方が適切に思えました。音をワインに例えるのはおもしろいですね。これはまた、ワインを飲む際にぼちぼち考えようと思います。






■ 独特の空気感を感じるチャイコフスキー。演奏すると興奮するブルックナー

ブルックナー
― 棚町さんにとっての、演奏していて気持ちが良い曲は、何ですか。

まずチャイコフスキーでしょうか。特に交響曲の4番と6番が好きです。管楽器と弦楽器のバランスが独特で、不思議な空気感があり、演奏していて没入できます。コッペリアやくるみ割り人形などのバレエ曲をオケピットで演奏したこともよい思い出です。「花のワルツ」などヴァイオリン奏者としては、弾いていて気持ちの良い曲です。

ブルックナーもいいですね。最初、ブルックナーの9番を知人の薦めで聞いたときは、「何だ?この退屈な曲は」と思いました。しかし、その後、演奏することを前提に聞くと、味わいがぜんぜん違いました。そして実際に練習すると、さまざまな発見があり、さらに楽しい。今やわたしにとってブルックナーは、聞いて演奏して、二度楽しい作曲家です。

■ 弓にお金をかけるべきかどうか、迷っていた時期

― 再び、ヴァイオリン選びの話に戻ります。300万円を出してマリオガッタを買ったとき、弓も買い換えようとは考えませんでしたか。

当時は、弓にお金をかけるべきかどうか迷いがあったので、買い換えませんでした。

― どんな迷いがあったのですか。

ある人は「弓には当然お金をかけるべきだ」と言います。「弓は手の延長。良い物を使えば当然、音はよくなる。本体の半額ぐらいの弓を使うのが妥当」といいます。

一方、上級演奏者であっても「弓にお金をかけるのは愚かだ」と主張する人もいます。「そもそもヴァイオリンの弦に接しているのは、弓ではなく毛の方。弓で音がよくなることはありえない」というのです。

どちらの考えが正しいのか、当時は分からなかったため、予算をすべて楽器に使いました。

■ ふと妻の弓で自分のヴァイオリンを弾いてみると…

― その迷いからは、どう抜け出したのですか。

ある日、ふと妻の弓で、自分のヴァイオリンを演奏したときのことです。弾き始めた瞬間、今までとはまったく違う、あたらしい音が流れはじめました。

少々、露骨な話になりますが、妻の弓は30万円で、わたしの弓は10万円でした。そうか、良い弓(高い弓)を使えば、やはり良い音が出るのだと、自分の中で納得しました。

弓を買い換えると決意しました。 それから情報収集をする中で出会ったのが、ダ・ヴィンチヴァイオリンのホームページです。

■ ダ・ヴィンチヴァイオリンへの第一印象

― ホームページを最初に見たときの印象はいかがでしたか。

敷居が高そうで、少し怖い印象がありました。店に行くと、あやしいおじさんが出てきて、商魂たくましく売りつけられるのか。あるいは、ウチにはあなたごときに売る弓はありませんよと冷たく門前払いされるのか。不安を感じました。

とはいえギヨームの弓の品揃えには驚くべきものがありました。ここでなら普通の楽器店にないギヨームが出会えるかもしれない。期待が高まりました。

山口さんのブログも読み込みました。山口さんは、ご自身がヴァイオリン奏者であり、ブログには、経験にもとづく深い見識が、分かりやすくリラックスした文章で書かれていました。顔写真を見ても、誠実で穏やかそうな人柄が伺えました。

ここなら大丈夫だと思い、訪問することにしました。

■ 5本目の弓を引いた瞬間、…

「美しい道具が、手に入りました」
― 来店してみての山口さんの印象はいかがでしたか。

予想どおりの穏やかな方でした。最初に20分ぐらい、山口さんから「いま使っている弓にどんな不満を感じていますか」、「どんな音を良い音と思いますか」などのヒアリングがあり、その後、何本かのギヨームの弓を実際に試奏させていただきました。

― その日は、最初からギヨームの弓を買うつもりだったのですか。

必ず買うとは思っていませんでした。「いま使っている10万円の弓よりも、2ランク上の音を感じる弓があれば、購入を真剣に検討しよう。1ランク上ぐらいだったら、気のせいかもしれないから見送ろう」。そう考えながら試奏していました。

6本の弓のうち、安いものから順番に弾いていきました。4本目までは、特に音の変化は感じませんでした。ところが5本目の弓になって、音が、劇的に変わりました。これだと感じました。

その弓の、形の美しさにも魅惑されました。先端の微妙なカーブ、だるさのないシャープな造形、手に取ったときの、指との一体感、ほどよい重量感。美しい道具でした。

おそるおそる値段を尋ねたところ、当初予算の100万円を大幅にオーバーする金額でした。「検討します」と言い残して、その日は帰りましたが、一晩過ぎても忘れられず、翌日には「買います」とメールしました。それから方々で金策し、ついにその弓を手に入れることができました。

■ ヴァイオリンに投じるお金は、惜しくない

― 棚町さんは普通の会社員ですが、ヴァイオリン本体に350万円、弓にも100万円以上の金額を投じています。単純に、驚きなのですが。

たとえば、クルマ好きの普通の会社員が、450万円を投じて、外国車を買うことは、決して珍しくない話だと思います。その人にとっては、クルマが価値観の中でいちばん重要なのです。

同じようにヴァイオリンは、わたしの人生の中で大きな価値を持っています。人からは「たかが楽器に、よく何百万円も出せるね」と不思議がられますが、わたしにとっては少しも惜しくありません。

ギヨームの弓のおかげで、冒頭に述べたとおり、7月の演奏会では充実したソロ演奏を行うことができました。大きな喜びです。

また、演奏会前の合宿練習の時には、仲間のヴァイオリン奏者から、「今日の音、いつもと違わないか?」と聞かれました。ギヨームの弓に換えたことは言っていませんでしたが、それでもハッキリ分かるほどに、音が変わっていたのです。弓を買い換えて本当に良かったと思えた瞬間でした。

■ これから弓を選ぼうとする人へのアドバイス

― これから弓を選ぼうとする人へのアドバイスがあればお聞かせください。

これから弓を買おうとする方には、「ネットだけで決めないように。ぜったいに楽器屋に行って、実際に弾いてから選ぶように」とお伝えしたいですね。弓は、「手の延長」になるべき道具ですから、見るだけでなく、手に取らないことには、正しく選べません。

また、「弓には楽器との相性がある」こともお伝えしたく思います。実は、今回、買ったギヨームの弓で、妻のヴァイオリンを弾いてみても、あまり良い音が出ません。弓と楽器にはやはり相性があり、高い弓なら必ずいい音が出るとは言い切れません。

■ これからの期待

― ダ・ヴィンチヴァイオリンへの、これからの期待などあればお聞かせください。

わたしは、もしかしたら一生の間に、もう一度ぐらいは、ヴァイオリン本体と弓を買い換えるかもしれません。その時、山口さんにご相談するかもしれませんが、その際はどうぞよろしくお願いいたします。

弓は出会いですし、楽器店も出会いです。わたしは、良い楽器店に巡り会えました。ダ・ヴィンチヴァイオリンには、これからも、ギヨームの在庫を充実していただき、ヴァイオリンを真に愛する人のためのお店でありつづけてほしいと思います。これからもよろしくお願いいたします。


※ 取材日時 2009年8月
※ 取材制作:カスタマワイズ


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